私が合鍵を作製しないたった一つの理由

aikagi_sakuseiわたしも結婚して子供が生まれ、家族ができました。その後子供が大きくなってきて住んでいたアパートも手狭になってきたので、少し広めのマンションに引っ越すことになりました。住まい選びというのは楽しい経験の後、なんとか念願のマイホームに引っ越したわたしたちでしたが、作業もひと段落したころにわたしの妻が「ホームセンターで合鍵を作ってきてほしい」と言いだしたのです。わたしが困ったように「実は合鍵を作ったことがないので方法が分からない」と告げるととても驚かれました。一人暮らしが長かったわたしの過去を知る妻は、おそらく合鍵くらい作ったことがあるはずと思っていたのでしょう。それまでのわたしの人生において決して作ることのなかった合鍵ですが、ここにおいてはじめて作成の運びとなったのです。

わたしがそれまで合鍵を作らなかった理由は、ひとえに一人暮らしのときの苦い経験にあります。わたしには高校からの仲の良い男友達がいたのですが、彼が当時付き合っていた彼女に渡した合鍵が、のちに悲劇を生むことになってしまったからです。
その友人はなかなかの好男子であり、自身も女好きなところがありました。ただ決して不誠実な男ではありませんでしたから、決して同時に複数の女性と付き合うようなことはなかったのです。しかしそのことは高校時代から彼を知っているからこそ分かることであり、周囲からそうは見られていなかった様子でした。そして彼自身、そのことを気にもとめていませんでした。昔から他人の目というものに無頓着だったのです。

彼女と分かれたときも、別に他の女性がいたわけではありません。ですが、彼女がそうは思わなかったようです。彼がいない間に合鍵を使って彼の部屋に侵入した彼女は、家探しした揚句そこで自殺を図ったそうです。幸い一命は取り留めましたが、それ以来、彼は女性恐怖症になってしまいました。安易に渡した合鍵が招いた悲劇と言えるでしょう。